原作は高校演劇の戯曲、低予算でありながら最高の青春ストーリー映画『アルプススタンドのはしの方』レビュー

映画『アルプススタンドのはしの方』レビュー
監督は城定秀夫、脚本は奥村徹也。ロケ地は神奈川県平塚市の平塚球場。
キャストは小野莉奈 、平井亜門、 西本まりん、中村守里、 黒木ひかりなどとなっています。
兵庫県立東播磨高等学校演劇部の顧問教諭を務めた籔博晶による高校演劇の戯曲が原作となっています。
戯曲が原作で、舞台など珍しい経緯での映画化で、低予算でありながらも非常に素晴らしい作品となっていました。
それでは映画『アルプススタンドのはしの方』のレビューをしていきたいと思います。
ネタバレは基本していませんが、一部ストーリーにふれた感想を述べているため一応ネタバレ注意とさせていただきます。
作品紹介・あらすじ

第63回全国高等学校演劇大会で最優秀賞となる文部科学大臣賞を受賞し、全国の高校で上演され続けている兵庫県立東播磨高校演劇部の名作戯曲を映画化。夏の甲子園1回戦に出場している母校の応援のため、演劇部員の安田と田宮は野球のルールも知らずにスタンドにやって来た。そこに遅れて、元野球部員の藤野がやって来る。訳あって互いに妙に気を遣う安田と田宮。応援スタンドには帰宅部の宮下の姿もあった。成績優秀な宮下は吹奏楽部部長の久住に成績で学年1位の座を明け渡してしまったばかりだった。それぞれが思いを抱えながら、試合は1点を争う展開へと突入していく。2019年に浅草九劇で上演された舞台版にも出演した小野莉奈、⻄本まりん、中村守里のほか、平井亜門、黒木ひかり、目次立樹らが顔をそろえる。監督は数々の劇場映画やビデオ作品を手がける城定秀夫。
2020年製作/75分/G/日本
アルプススタンドのはしの方 : 作品情報・キャスト・あらすじ・動画 – 映画.com
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
劇場公開日:2020年7月24日
評価点

試合を観戦している登場人物は野球のルールも良く分からない、また誰しもが抱えている悩みがあります。そのため登場人物のセリフや心情に自然と共感することが出来るように作られています。つまり、視聴者に目線や価値観が非常に近い。
面白くない映画に共通するのが登場人物の考え方や価値観が理解できないことが挙げられます。
私はなろう系の作品が苦手なのですが、その理由が主人公は何も努力しない、最初から恵まれた境遇や能力を持っていることが多いから。現実ではありえない恵まれすぎた環境の主人公に共感が出来ないからです。
その反面、本作の登場人物の描き方は非常に素晴らしい。「共感」「感情移入」を大切にしているのが伝わってきます。そのため試合展開と同時に動いていく登場人物の心情の変化にも自然と共感できます。
また、音楽のこだわりも素晴らしいです。基本サウンドはなく、甲子園での吹奏楽部の演奏を話の展開にあわせて演出していく手法がとられており不自然な音楽の演出は1箇所もなかったです。

総評
物語はアルプススタンドで野球を観戦している高校生の会話のやり取りに過ぎません。一見興味を惹かれる要素はなく、面白くないストーリーに感じられるかもしれません。
しかし前述した登場人物の心理描写を丁寧に描いていることもあり、作品を観ているうちにそれぞれの登場人物の心情の変化に共感することが出来る作品になっています。
小規模・低予算ではありますが、ストーリーとキャラクター、ストーリー構成など全てにおいて高水準な作品となっています。
知名度が高い作品ではありませんが、2020年を代表する隠れた名作の1本となっていますのでまだ視聴していない方は是非観ることをオススメします。
サブスクやDVDでも鑑賞出来ると思いますので、騙されたと思って見てもらいたい映画です。原作が高校演劇の戯曲とは思えない程ストーリーが素晴らしいです。
