映画『かがみの孤城』 レビュー
”原恵一監督お帰りなさい!”
2022年で僕がTVシリーズのアニメ映画を除いた新規アニメ映画で1番完成度が高い作品はと聞かれたら本作『かがみの孤城』と答えます。
本作で監督を務めた原恵一監督は、『クレヨンしんちゃん 大人帝国の逆襲』、『クレヨンしんちゃん あっぱれ戦国大合戦』という名作を立て続けに世に放った名監督です。
しかし「バースデーワンダーランド」という作品では、本当に原恵一監督の作品なの…と思わずにはいられない微妙な作品でした。
しかし本作『かがみの孤城』を鑑賞して真っ先に感じたのは、この作品を制作してくれた原恵一監督を初め制作陣の方々に感謝の気持ちでした。
そんな名作『かがみの孤城』のレビューをしていきたいと思います。
作品紹介・あらすじ
学校での居場所をなくし部屋に閉じこもっていた中学生・こころ。
ある日突然部屋の鏡が光り出し、
吸い込まれるように中に入ると、そこにはおとぎ話に出てくるようなお城と見ず知らずの中学生6人が。
さらに「オオカミさま」と呼ばれる狼のお面をかぶった女の子が現れ、
「城に隠された鍵を見つければ、どんな願いでも叶えてやろう」と告げる。
期限は約1年間。
戸惑いつつも鍵を探しながら共に過ごすうち、7人には一つの共通点があることがわかる。
互いの抱える事情が少しずつ明らかになり、次第に心を通わせていくこころたち。
そしてお城が7人にとって特別な居場所に変わり始めた頃、ある出来事が彼らを襲う――――
果たして鍵は見つかるのか?なぜこの7人が集められたのか?
それぞれが胸に秘めた〈人に言えない願い〉とは?
映画『かがみの孤城』公式サイト (shochiku.co.jp)
評価点
- キャラクターの描き込みが素晴らしい
- 伏線回収が見事
- 取捨選択がされており映画のクオリティが上がっている
キャラクターの描き込みが素晴らしい
本作『かがみの孤城』では、序盤に7人ものキャラクターを登場させます。一度に新規キャラクターを登場させると普通では「覚えるのが大変」、「誰に感情移入したら良いのか分からない」となりがちです。
しかし、本作ではそのような感情にならないような工夫が至る所にされています。登場するキャラクターにはそれぞれの共通点があり次第にその共通点が明かされていく展開となっており、この伏線の張り方が非常に上手くキャラクターに序盤から目が離せません。
またキャラクターの抱えている悩みは、本作を鑑賞する人にも共感できることや同じ境遇の人も大勢いることでもあるためキャラクターが悩み苦しみながらも必死に生きる姿に心が動かされる人も多数いると思います。
それぞれ性格も考え方も異なる彼(彼女)らが、過酷な現実と向き合いお互いに手を取り合いながら勇気ある一歩を踏み出して行く姿は必見です。
一見完璧に見える人でも、悩みがないように見える人でも誰もが向き合いたくない現実と戦いながら生きている。そして現実に押しつぶされそうになりながらも必死にもがきながら小さな一歩を踏み出す彼(彼女)らを応援せずにはいられなくなると思います。
伏線回収が見事
評価点の一つに挙げましたが、この点はネタバレになるので多くのことは語れません。
ですが序盤で張り巡らされた伏線、お城の中に集められた7人の子供の共通点が次第に明かされていくことになります。実際はもう一人重要な人物がいるのですがそれも伏せさせていただきます。
僕が思う上手い伏線回収とは、伏線が回収された際に「納得できること」、「驚かされること」、「心が動かされること」の三点があるかどうかだと思います。
唐突に実は〇〇でしたと言われても納得はできないし、心が動かされることはありません。またあからさまに伏線を張って後から回収される方法では少なくとも驚かされることはないと思います。
本作では、世界観やキャラクターに多くの伏線が序盤から張り巡らされていて、徐々に明らかになっていくのですが、本作には僕が思う上手い伏線回収の「納得できること」、「驚かされること」、「心が動かされること」の三点が盛り込まれています。
そしてラストシーンでは、それも伏線だったのと驚かされるものもあり感動させられました。これは是非実際に鑑賞して体感してほしいです。
取捨選択がされており映画のクオリティが上がっている
原作ありきの映画においては取捨選択は必要不可欠だと思っています。よく原作ありきの映画において、原作であった描写がカットされている箇所があるとか、キャラクターの掘り下げが原作よりも甘いとか耳にしますがそれは当然です。
映画には上映時間がありその中で原作の良さを引き出すことが重要なのであり、原作をそのまま映画にするのは適切ではないと思います。映画よりも原作の方がページ数にもよりますが多くの描写を描くことができるのは間違いありません。
その原作の内容を余すことなく映画に入れてしまえば上映時間が長尺になり、5時間とか6時間は平気でいってしまいますしそれでも描き切れないかもしれません。映画館で鑑賞する場合どんなに面白い作品であってもその時間ずっと座って鑑賞し続けるのは辛いのではないでしょうか。
そのため、原作ありきの映画では内容を余すことなく取り入れることではなくて、原作の魅力や原作の伝えたいことを原作のシナリオを崩すことなく取り入れることだと思います。
世界的に大ヒットした「ハリーポッター」シリーズも原作の内容は全て映画には入っていません、原作の内容の中から取捨選択が行われ映画としてベストな形で上映されています。
本作「かがみの狐城」でも同じで原作の内容が全て映画に入っている訳ではありません、しかし映画としての最もクオリティが高い形で上映されているのは間違いありません。
最後に原作者辻村深月さんの言葉です。
引用 映画『かがみの孤城』公式サイト (shochiku.co.jp)
総評
本作はキャラクターの描き方から伏線の張り方、伏線の回収のされ方において全てにおいて最高水準となっています。
原作者も本作品を観て非常に満足していることが分かることからも、原作の要素の取捨選択において完璧だったと思います。取捨選択は映画化するにあたり必須のことであり、原作者の伝えたいこと、作品の描いたことを映像化できていれば原作の物語を余すことなく取り入れる必要はないです。
7人の少年(少女)のバックストーリー、あともう一人の重要な人物のバックストーリーも非常に丁寧で感情移入できますし、最後の「こころ」たちが選んだ選択にも心が動かされました。
「バースデー・ワンダーランド」で本当にこれ原恵一監督なのと幻滅させられましたが、本作を鑑賞して、やはり原恵一監督の手腕は天才的だなと改めて再認識することが出来ました。
ようやく私たちの知っている原恵一監督が帰ってきたということで、最後に「原恵一監督お帰りなさい!」と一言伝えたいです。