映画『ハケンアニメ!』レビュー
”埋もれてしまうのは惜しいお仕事ムービー”
監督は「水曜日消えた」などを手掛けた吉野耕平。脚本は政池洋佑。
主演は吉岡里帆、中村倫也、柄本佑、尾野真千子、工藤阿須加、小野花梨、高野麻里佳などなっています。
原作は直木賞作家である辻村深月先生による小説「ハケンアニメ!」となっており一定の評価を受けている作品となっています。
興行収入的には成功とは言えない映画となってしまいましたが、決してつまらない作品ではなく、むしろもっと評価されても良い映画だといった感想を抱きました。
ではレビューをしていきたいと思います。
目次
作品紹介・あらすじ
作品紹介
直木賞作家・辻村深月がアニメ業界で奮闘する人々の姿を描いた小説「ハケンアニメ!」を映画化。
地方公務員からアニメ業界に飛び込んだ新人監督・斎藤瞳は、デビュー作で憧れの天才監督・王子千晴と業界の覇権をかけて争うことに。
王子は過去にメガヒット作品を生み出したものの、その過剰なほどのこだわりとわがままぶりが災いして降板が続いていた。プロデューサーの有科香屋子は、そんな王子を8年ぶりに監督復帰させるため大勝負に出る
。一方、瞳はクセ者プロデューサーの行城理や個性的な仲間たちとともに、アニメ界の頂点を目指して奮闘するが……。
新人監督・瞳を吉岡里帆、天才監督・王子を中村倫也が演じ、柄本佑、尾野真千子が共演。「水曜日が消えた」の吉野耕平が監督を務めた。劇中に登場するアニメは「テルマエ・ロマエ」の谷東監督や「ONE PIECE STAMPEDE」の大塚隆史監督ら実際に一線で活躍するクリエイター陣が手がけ、そのキャストとして梶裕貴ら人気声優が多数出演。
2022年製作/128分/G/日本
ハケンアニメ! : 作品情報 – 映画.com (eiga.com)
配給:東映
あらすじ
連続アニメ『サウンドバック 奏の石』で夢の監督デビューが決定した斎藤瞳。だが、気合いが空回りして制作現場には早くも暗雲が…。
瞳を大抜擢してくれたはずのプロデューサー・行城理は、ビジネス最優先で瞳にとって最大のストレスメーカー。「なんで分かってくれないの!」だけど日本中に最高のアニメを届けたい! そんなワケで目下大奮闘中。
最大のライバルは『運命戦線リデルライト』。瞳も憧れる天才・王子千晴監督の復帰作だ。
王子復活に懸けるのはその才能に惚れ抜いたプロデューサーの有科香屋子…しかし、彼女も王子の超ワガママ、気まぐれに振り回され「お前、ほんっとーに、ふざけんな!」と、大大悪戦苦闘中だった。
瞳は一筋縄じゃいかないスタッフや声優たちも巻き込んで、熱い“想い”をぶつけ合いながら “ハケン=覇権” を争う戦いを繰り広げる!!
STORY | 映画『ハケンアニメ!』公式サイト (haken-anime.jp)
その勝負の行方は!? アニメの仕事人たちを待つのは栄冠か? 果たして、瞳の想いは人々の胸に刺さるのか?
評価点・賛否両論点
- 原作からの改変が映画として成功してる
- 劇中のアニメーションのクオリティが高い
- 登場人物の設定が練り込まれてる
原作からの改変が映画として成功してる
原作と大きな違いとして、複数の主人公の視点を描いた原作と違い主人公の斎藤瞳に焦点を絞ったストーリーに改変されている点と、ベテランのアニメ監督という設定から新人アニメ監督という立場に変更されている点が挙げられます。
また新人監督・斎藤瞳と天才監督・王子のアニメが同じ時間帯のアニメ枠となっており視聴率を競う対立関係となっており、より「バクマン」という漫画に近い関係性になっています。
実績も経験もないアニメ監督が天才のアニメ監督に挑むといった構成は小説というよりは漫画に近い構成にはなっていますが、映画として観た時に非常に見応えがあり面白い改変だと思います。
また放送枠が被っていることもあって二人のアニメ監督の作品のどちらがハケンアニメになるのかといった改変はドラマなら原作通りで良かったかもしれませんが、決められた尺で原作の設定を上手く作品として落とし込まなくてはならない映画では上手い改変だと思いました。
劇中のアニメーションのクオリティが高い
新人監督・斎藤瞳のアニメと天才監督・王子が手掛けるアニメが劇中で見ることができるのですが、実際にアニメ化しても通用するようなクオリティとなっています。
それもそのはず、実際のアニメ制作会社のアニメーターが劇中のアニメを担当しているため作画の完成度が高くなっています。
また、劇中のキャラクターに声を当てている人も高野麻里佳や高橋李依といった本職の声優を起用しているためアニメとして高視聴率を叩き出しているといった設定に説得力があります。
映画によっては設定だけで見ている人に伝わるように映像として見せてくれる作品はあまりありませんし、見せたとしても「これがヒットする作品か⁉」といった疑問が常に付きまとう映画やドラマの方が大半です。
それをしっかり映像として、登場人物がどれくらい完成度の高いアニメーションを制作しているのか見せてくれるのは評価できるポイントだと思います。
登場人物の設定が練り込まれてる
斎藤瞳の担当プロデューサーの行城理は作品をヒットさせることに手段を選ばない人物。一方王子の担当のプロデューサーは監督の納得のいかない作品は世に出すべきではないと監督の意思を尊重するプロデューサー。
直感的に考えると王子監督の担当プロデューサーが正義で、行城理の考え方は間違っているように思えます。しかし、アニメ制作会社からしたら制作したアニメーションが視聴者の目に止まらなければ報われません。
そのため、行城理の思考は完全に否定することはできないのが面白いところです。視聴者からしたら嫌悪感の抱く宣伝方法でも制作したアニメーションを世に届けることが一番という考え方も監督が納得した自信をもって世に出せるアニメーションを届けることが一番という考え方もどちらも視点を変えると善悪を決められない設定は深みがあって面白いと思います。
総評
原作を映画化する上で改変したら面白いところとつまらないところの見極めが素晴らしく、しっかり映画作品として評価できるポイントが沢山ある映画となっています。
劇中のアニメーションも本当のアニメ制作会社に制作してもらっているためクオリティが高く、二人のアニメ監督の作品がどちらも覇権アニメになってもおかしくないという説得力があって素晴らしい試みだと思います。
興行収入こそ振るわなかったものの爆死するには惜しい作品だといった感想です。
全く不満要素がないかと言われればそうではありません。後半の展開が少し強引に感じるところやストーリーの構成にしてもテンポが良いとは言えません。しかし、日本アカデミー賞で賞を複数受賞していることからも決してつまらない映画ではありませんし、もっと評価されるべき作品だと思います。