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”彼女がついた嘘とは、語り手の語る過去は必ずしも真実ではない。映画『遠い山なみの光』レビュー”

レッド

映画『遠い山なみの光』レビュー

この映画は悦子が娘のニキに昔長崎にいた時の過去を語る形で、過去と現在のパートを繰り返しながら進行するストーリーとなっています。

見る前に意識してもらいたいのが原作者がカズオ・イシグロだということ。

カズオ・イシグロの作風は回想で見せているものを全て真実だと受け取ってしまうと謎が深まってしまい、理解ができずつまらないと感じてしまいます。。

そのため、この映画を面白いと感じるためには、回想話は全て悦子の主観となっていることを前提として見ること。つまり、真実を捻じ曲げられて伝えられていること。

それでは、『遠い山なみの光』のレビューをしていきたいと思います。

ストーリーのネタバレは基本していませんが、あらすじなど少しストーリーにふれた感想を書いているためその点は注意してください。

作品紹介・あらすじ

引用:映画『遠い山なみの光』本予告映像【9月5日(金)全国ロードショー】

あらすじ・解説

ノーベル文学賞受賞作家カズオ・イシグロが自身の出生地・長崎を舞台に執筆した長編小説デビュー作を映画化したヒューマンミステリー。日本・イギリス・ポーランドの3カ国合作による国際共同製作で、「ある男」の石川慶監督がメガホンをとり、広瀬すずが主演を務めた。

1980年代、イギリス。日本人の母とイギリス人の父の間に生まれロンドンで暮らすニキは、大学を中退し作家を目指している。ある日、彼女は執筆のため、異父姉が亡くなって以来疎遠になっていた実家を訪れる。そこでは夫と長女を亡くした母・悦子が、思い出の詰まった家にひとり暮らしていた。かつて長崎で原爆を経験した悦子は戦後イギリスに渡ったが、ニキは母の過去について聞いたことがない。悦子はニキと数日間を一緒に過ごすなかで、近頃よく見るという夢の内容を語りはじめる。それは悦子が1950年代の長崎で知り合った佐知子という女性と、その幼い娘の夢だった。

1950年代の長崎に暮らす主人公・悦子を広瀬すず、悦子が出会った謎多き女性・佐知子を二階堂ふみ、1980年代のイギリスで暮らす悦子を吉田羊、悦子の夫で傷痍軍人の二郎を松下洸平、二郎の父でかつて悦子が働いていた学校の校長である緒方を三浦友和が演じた。2025年・第78回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門出品。

2025年製作/123分/G/日本・イギリス・ポーランド合作
配給:ギャガ
劇場公開日:2025年9月5日

遠い山なみの光 : 作品情報・キャスト・あらすじ・動画 – 映画.com

感想

女たちの遠い夏、悦子と佐知子、万里子と景子長崎の頃の回想の違和感に注目

この映画は、吉田羊演じる悦子がニキへ長崎の頃の自分を語る現代パートと、広瀬すず演じる若い頃の悦子の過去のパートを行き来する構成となっています。

現在、悦子の娘の景子は自殺してしまっており、景子の妹のニキに姉の景子のことを語るのは悦子からしてみれば話したくない過去となります。

この映画を見る際に意識してもらいたいのが原作者がカズオ・イシグロだということ。

回想の映像は過去に起きたことを淡々と描いている訳ではなく、あくまで吉田羊演じる現在の悦子が語っているということ。

カズオ・イシグロ作品には「嘘」をテーマにしたものが含まれますが、これは記憶や過去の出来事の中に隠された真実、あるいは語り手の主観的な記憶の不確実性を描くために用いられます。

つまりこの映画の楽しみ方としては、語り手の語る過去は必ずしも真実ではないということ、記憶の曖昧さがあるということ。また、その記憶には語り手の感情が含まれていること。

これらを前提としてみると、物語に対しての映画への没入感が生まれ、悦子の葛藤や苦悩から彼女の語る過去の中の「嘘」を読み解く面白さが生まれてきます。

この『遠い山なみの光』でも、悦子が「信頼できない語り手」であることをストーリーの中で示しており現在の話と、過去の記憶とで矛盾している箇所が度々散見されます。

誰でも、自分の記憶を語る際自分に都合の悪いことは伏せようとする。そのため、真実を歪めてしまうことがあるが、この映画の嘘とはまさにそれである。その「嘘」を読み解いていくのがこの映画の最大の楽しみ方であると感じます。

また、映画の中で登場するにもどのような意味が込められているのかにも注目してもらいたい。またラストのどんでん返しも必見です。

一般の映画とは少し異なる楽しみ方となっており、逆に言えばその他の映画と同じ感覚で見てしまうと全然面白くないといった感想になってしまうと思います。

カンヌ国際映画祭でも出品されたこと、主演の広瀬すず、その他のキャストの吉田羊、二階堂ふみと松下洸平と演技は素晴らしかったですし、刺さる人にはぶっ刺さる作品となっていますので映画館に足を運んでみることをオススメします。

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