映画『ミッドナイトスワン』 レビュー
”アカデミー賞を受賞するのも納得の名作”
2021年の日本アカデミー賞において、最優秀作品賞、最優秀主演男優賞を受賞。
さらに最優秀監督賞、最優秀脚本賞に内田英治。新人俳優賞に服部樹咲と数多くの賞を獲得した本作。
実際に鑑賞してみると、作品のテーマ性も丁寧に描かれており、役者陣の演技、キャラクターの描き方も素晴らしく日本アカデミー賞を受賞するのも納得の作品となっています。
映画『ミッドナイトスワン』の魅力をレビューしていきたいと思います。
作品紹介・あらすじ
草なぎ剛演じるトランスジェンダーの主人公と親の愛情を知らない少女の擬似親子的な愛の姿を描いた、「下衆の愛」の内田英治監督オリジナル脚本によるドラマ。
故郷を離れ、新宿のニューハーフショークラブのステージに立つ、トランスジェンダーの凪沙。ある日、凪沙は養育費目当てで、少女・一果を預かることになる。常に社会の片隅に追いやられてきた凪沙、実の親の育児放棄によって孤独の中で生きてきた一果。そんな2人にかつてなかった感情が芽生え始める。
草なぎが主人公・凪沙役を、オーディションで抜擢された新人の服部樹咲が一果役を演じるほか、水川あさみ、真飛聖、田口トモロヲらが共演。第44回日本アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞し、草なぎも最優秀主演男優賞を受賞した。
2020年製作/124分/G/日本
ミッドナイトスワン : 作品情報 – 映画.com (eiga.com)
配給:キノフィルムズ
評価点
- 心理描写の描き方が素晴らしい
- トランスジェンダーというテーマを丁寧に描かれている
- 役者陣が素晴らしい
心理描写の描き方が素晴らしい
親の育児放棄によって親の愛情を知らない一果が、心を閉ざしてしまっている様子を丁寧に描いていたり、初めは子供を育てなければならなくなったことに面倒臭さいとすら感じていた凪沙が徐々に一果を気にかけていく描写は本作での一番の見どころだと思いました。
数々のトラブルや衝突を繰り返しながら、お互いのことを少しずつ気にかけていく心の変化の描かれ方は本当に丁寧に描かれており、僕が本作を鑑賞しての一番の評価ポイントです。
また過酷で生きる希望さえ見出せない状況の一果が自分の本当にやりたいことを見つけて、夢に向かって一歩踏み出していく姿は心を揺さぶられました。
この二人の関係以外の登場人物の描写も非常に丁寧で、ネタバレになってしまうので具体的には説明できませんが、凪沙と同じく性別の壁に苦しんでいる人物、一果の友達など様々な登場人物の描写が非常に素晴らしく描かれていました。
トランスジェンダーというテーマを丁寧に描かれている
現在では、昔よりも多様性について考えられるようになっています。その中で、まだトランスジェンダーに対して寛容的な環境が整ってるとは言えないのが現状だと思います。
本当は女性として生涯を全うしたいが性別は自分自身で選べるものではなく、生まれた性別が男性であれば男性として生きていかなければなりません。その逆も然りです。
本作では、トランスジェンダーで悩んでいる人の心理的や周囲の人達の反応などの描写が細やかに描かれています。一果のクラスメイトが凪沙を見た時の反応や自分の本名を記入しなければならない時の自分自身との葛藤。
フィクションの中の話ではなく、現実でも同じようにトランスジェンダーで悩んでいる人は大勢いるわけで、作品のテーマを丁寧に描いているのは非常に好感が持てました。
役者陣が素晴らしい
役者陣のレベルは総じて高いのですが、特に素晴らしい演技をしていたのが一果役の服部樹咲さんです。
親の愛情を感じられずに完全に心を閉ざしている少女が、本当に自分のやりたいことを見つけ夢に向かって一歩ずつ階段を上っていく。また人との繋がりを経て徐々に心を開いていく非常に難しい役どころですが、その役柄を完璧に演じていました。
また子供らしい演技にもリアリティがあり映画を観ている最中に一度も偽物だと感じませんでした。よくクオリティの低い映画で見受けられるのが子供が全く子供らしくないといったものです。
脚本は当然大人が考えます。そして大人の考えたセリフや演出を何も考えずそのまま演じてしまうと自然な子供の感じは出ません。大人の考える子供にしかならないということです。
しかし一果役の服部樹咲さんの演技は与えられた役柄を自分の中で嚙み砕き役に落とし込んで、一果という少女を演じ切っています。
総評
トランスジェンダーというテーマ、キャラクターの心理描写など全てにおいてレベルの高い一本だと感じました。
脚本が素晴らしいのはもちろんですが、役者陣の演技も非常にレベルが高いと感じました。また、それらの脚本や役者陣の才能と成果を作品に完璧に落とし込んだ監督の手腕は見事としか言いようがありません。
2021年の最優秀監督賞、最優秀脚本賞に内田英治。新人俳優賞に服部樹咲と数多くの賞を獲得するのも納得の作品だと思いました。
2021年の日本アカデミー賞を受賞した本作まだ鑑賞していない人は是非一度観てもらいたい作品です。