映画『ちひろさん』レビュー
”人物を描くことに特化した作品”
Netfilixの独占オリジナル映画「ちひろさん」
有村架純出演のNetfilix独占映画、ランキングも含め鑑賞している人の多い注目作品です。
僕のブログでは映画館で上映された映画のレビュー記事しか挙げていなかったので新しい試みとしてNetfilixでしか観られない本作のレビューをしていきたいと思います。
結論から伝えると、キャラクターの描き方、役者の演技力において非常にレベルの高い作品となっています。
作品紹介
ちひろ(有村架純)は、風俗嬢の仕事を辞めて、今は海辺の小さな街にあるお弁当屋さんで働いている。元・風俗嬢であることを隠そうとせず、ひょうひょうと生きるちひろ。彼女は、自分のことを色目で見る若い男たちも、ホームレスのおじいさんも、子どもも動物も・・・誰に対しても分け隔てなく接する。
そんなちひろの元に吸い寄せられるかのように集まる人々。彼らは皆、それぞれに孤独を抱えている。厳格な家族に息苦しさを覚え、学校の友達とも隔たりを感じる女子高生・オカジ(豊嶋花)。シングルマザーの元で、母親の愛情に飢える小学生・マコト(嶋田鉄太)。父親との確執を抱え続け、過去の父子関係に苦悩する青年・谷口(若葉竜也)。ちひろは、そんな彼らとご飯を食べ、言葉をかけ、それぞれがそれぞれの孤独と向き合い前に進んで行けるよう、時に優しく、時に強く、背中を押していく。
そしてちひろ自身も、幼い頃の家族との関係から、孤独を抱えたまま生きている。母親の死、勤務していた風俗店の元店長・内海(リリー・フランキー)との再会、入院している弁当屋の店長の妻・多恵(風吹ジュン)との交流・・・揺れ動く日々の中、この街での出会いを通して、ちひろもまた、自らの孤独と向き合い、少しずつ変わっていく。
これは、軽やかに、心のままに生きるちひろと、ちひろと出会う人々―彼らの孤独と癒しの小さな物語。
2月23日公開 映画「ちひろさん」公式サイト (asmik-ace.co.jp)
評価点
- キャラクター性が引き立っている
- 自然な演出
- 環境音のこだわり
キャラクター性が引き立っている
キャラクターの描き方が自然で映画を観ている間、映像作品を観ているということを忘れるくらい作品に没頭することができます。
敢えて人を美化して描くのではなく、人間の汚い部分を残して描いている点は本作の魅力の一つであるといえます。キャラクターを美化して描き過ぎてしまうと現実とかけ離れすぎて、現実味が失われてしまいます。このバランスはリアリティを重視する作品であれば非常に重要です。
またキャラクター性を引き立たせている一番の貢献者は主人公を演じている女優の有村架純の演技力にあると思います。彼女の演技は自然であり、本作のリアル寄りな作風と非常にマッチしていると感じました。
過剰な演技になってしまえば嘘くさくなってしまい、作品とのアンバランスさから気持ちが離れてしまいますが彼女の演技は本当に素晴らしかったと言えます。
物語としては起承転結があり成り立ってはいますが、ストーリー性がそこまで高い作品ではないと思います。特別感動シーンがあるというわけでもあえりませんし、驚かされるような展開が用意されるわけでもありません。
ちひろさんというキャラクターを描くこと、この一点に注力した作品と言えます。このキャラクターを描くという観点では本作は非常に完成度の高い作品だと言えると思います。
自然な演出
演出に関しては、派手な演出だったり目新しい演出というのはありませんでした。しかし、まるで生活や自然の一部を切り取ったような撮影は物語の中に入り込んだような感覚になり、映画を観ているというよりも一人の人間のドキュメンタリーを観ているような感覚でした。
この演出は好き嫌いがあると思いますが、僕は一人の人間を描く作品は音楽が主張し過ぎずその人物の自然な言動、仕草、行動を丁寧に描く撮影や演出が好きなので、こういった日常を切り取ったような演出は好感が持てました。
有村架純の演技も非常に作品とシンクロしており、演技が自然でした。もちろん役者陣全員に共通して言えることですが、監督や制作陣がどのような作風にしたいのか伝わってくるようでした。
作品と役者の演技のギャップがありすぎると作品から心が離れてしまうため、作品と役者の演技のギャップがなくシンクロしていることは作品の質を高める上では必須なことだと思います。
環境音のこだわり
作品の中に音楽が入るシーンは当然ありますが、物語全体を通して環境音だけのシーンが非常に多かったです。波の音、風の音、ちひろの鼻歌など音楽がなく実際そこ場で生まれた「音」が作品の大半を占めています。
音楽の主張を敢えてさせずに、臨場感を大事に作られているのが感じられます。当然、音楽を多用する作品でも素晴らしい作品は沢山ありますし、環境音が多用する作品の方が優れていると言いたいわけではありません。
しかし音楽と環境音のバランスは本作では特に印象に残りましたし、作風にも非常にマッチしていると感じました。
音楽で無理やり泣かせようとする演出や、無理やり盛り上げようとする下品な演出は本作ではありません。「ちひろ」の人間性を描き、後は観ている人の感性に委ねる。そのために不要な演出はしていないといった印象です。
総評
最後に評価点のみお伝えしてきましたが一部気になった点もあります。ネタバレになるので具体的には記載しませんが
物語中盤のシーンで、「それって倫理的にどうなの?」っていう行動をちひろが行います。それに対して物語の中で深く掘り下げることもなく煮え切らない箇所があります。おそらく賛否が分かれるとしたら、このシーンとストーリー性があまりない点だと思います。
良くも悪くも「ちひろ」という人物を美化することなく、自然に描いた作品です。つまり「ちひろ」が好きになれるか、嫌いかで賛否が分かれる作品だと思います。
役者の演技、演出、音楽に関してのクオリティは高く、完成度は非常に高い作品だと思います。