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映画『映画大好きポンポさん』レビュー

レッド

”スタッフとジーン監督の気持ちが完璧にシンクロした神作”

監督と脚本は平尾隆之、アニメーション制作はCLAP

2021年に公開のアニメ映画となっていますが個人的には2021年に公開された映画の中では最も高く評価している映画となっています。

小規模での公開となっており、興行収入としては爆死とまではいかないにしても、あまり芳しくない結果となってしまいました。

しかし映画としてのクオリティは非常に高く、神作と評価しても差し支えない完璧な作品となっていました。

『映画大好きポンポさん』レビューしていきたいと思います。物語の結末などのネタバレは控えますが、多少のネタバレは含みますのでネタバレ注意でお願いします。

作品紹介・あらすじ

作品紹介

杉谷庄吾【人間プラモ】 の『映画大好きポンポさん』(MFCジーンピクシブシリーズ/KADOKAWA刊)は、映画を愛する青年と映画に愛された女性が映画制作を通して”自分”を見つけ出す、映画愛に満ちあふれた作品だ。pixiv上で80万ビューを超え、「このマンガがすごい!」、「マンガ大賞」に入賞。多くのファンを生み出してきた話題作が、充実のスタッフ、声優陣によりアニメーション映画となった。

 監督と脚本を務めるのは『劇場版「空の境界」第五章 矛盾螺旋』、『GOD EATER』などを手がけてきた 平尾隆之 。キャラクターデザインは『ソードアート・オンライン』シリーズ、『WORKING!!』の 足立慎吾 。アニメーションは『この世界の片隅に』チームが立ち上げた新進気鋭の制作会社 CLAP が担当する。

 主人公のジーンを演じるのは、映画『ホットギミック ガールミーツボーイ』ほか数々の映画やドラマで注目を集めている若手注目株の俳優 清水尋也 。かねてから声優での活動も熱望していた清水は、この映画で声優初挑戦にして主演の座を掴み取った。 新人女優のナタリー役には、本人もモデル、女優として今後の活躍が期待されている 大谷凜香 。大谷も本作が劇場アニメーション声優初挑戦となり、2人が声をあてるキャラクターたちの掛け合いが待ち遠しい。そして映画プロデューサー・ポンポさん役には人気急上昇中の声優・ 小原好美 という、才気溢れる若手の実力者が集結した。

豪華スタッフと声優陣が生き生きと描き出す、映画制作の面白さと楽しさ、そして映画監督の尽きない探究心。映画ファンやクリエイターだけではなく、夢と未来を掴もうとするすべての人に贈る、青春“ものづくり”フィルムが、今、ここに誕生する。

劇場アニメ『映画大好きポンポさん』公式サイト (pompo-the-cinephile.com)

あらすじ

敏腕映画プロデューサー・ポンポさんのもとで製作アシスタントをしているジーン。映画に心を奪われた彼は、観た映画をすべて記憶している映画通だ。映画を撮ることにも憧れていたが、自分には無理だと卑屈になる毎日。だが、ポンポさんに15秒CMの制作を任され、映画づくりに没頭する楽しさを知るのだった。 ある日、ジーンはポンポさんから次に制作する映画『MEISTER』の脚本を渡される。伝説の俳優の復帰作にして、頭がしびれるほど興奮する内容。大ヒットを確信するが……なんと、監督に指名されたのはCMが評価されたジーンだった! ポンポさんの目利きにかなった新人女優をヒロインに迎え、波瀾万丈の撮影が始まろうとしていた。

劇場アニメ『映画大好きポンポさん』公式サイト (pompo-the-cinephile.com)

評価点

  • ポンポさんの映画制作のこだわりに共感できる
  • ストーリー構成に無駄が一切無い

ポンポさんの映画制作のこだわりに共感できる

作中でポンポさんが映画に対する数々の映画論を語るのですがどれも非常に興味深い内容となっています。代表的なのが「上映時間は90分」ポンポさんは尺の長い映画を嫌っており、映画の尺は長くなれば集中力が途切れやすくなるため、何も考えず無駄に尺を稼ぐ映画ではなく、伝えたいことや取り入れたいことを映画を観る人が最も見やすい尺で映画を制作することが大切だと語ります。

他にも女優を魅力的に見せればOKというもの、この言葉の通り女優を魅力的に見せています。ポンポさんの映画論を「映画大好きポンポさん」という作品に落とし込んでいるところも素晴らしいところだと思います。

最近では、過去映画をリメイクする際に上映時間が何故か伸びている作品が多々見受けられます。そして追加された要素のどれもが蛇足と感じてしまう要素ばかりで尺を長くする必要があったのか疑問に思うようなことが増えました。

制作する人たちの中に上映時間を水増しすることが正しいと思っている人がいるのかは分かりませんが、そのような映画を観てリメイク前の作品の方が良かったなと思うことが増えてきた矢先に、ポンポさんの映画論は共感できるものばかりでした。

そして、なんとこの「映画大好きポンポさん」という映画の上映時間が作中のポンポさんの映画論通り上映時間90分で原作の魅力を映画としての完成度を最大まで高めた状態で終わらせるこだわりには本当に脱帽させられました。

ストーリー構成に無駄が一切無い

原作との大きな違いはオリジナル要素が足されているところです。映画オリジナルの要素は「追加シーン」と「編集」のストーリーです。

原作では、どちらかというとポンポさんの映画をジーンが初監督として制作するという感じでしたが、映画ではジーンが初監督作品として自分の映画を世に出すというニュアンスになっています。

そこで、「追加シーン」と「編集」というオリジナル要素が大きな役割となってくるのです。ジーンは一通りの撮影を終えた後に、足りないシーンがあることを申し出ます。しかし一度撮り終えた後に制作陣やキャストを再度集結させて撮影するのはスケジュール的にも制作費の観点から見ても難しいことです。

しかし、この追加撮影にこだわるジーンを描いたことで、ポンポさんの映画をジーンが初監督として制作するという構図ではなく、ジーンが自分の初監督作品で映画を世に出したいという構図に置き換わっているように見えて映画としての面白さをより一層感じられるようになっています。

これは、原作にない要素を追加して映画としての完成度を高めたいとする「映画大好きポンポさん」の制作陣と作中のジーン監督の気持ちとがシンクロしていると言えます。キャラクターの気持ちと制作陣の想いがシンクロしている作品はその時点で傑作となる傾向にあるのですが、この映画もその傾向通りの傑作だと思います。

また、追加で撮影したシーンを今度は編集するパートがクライマックスにあるのですが、編集パートは映画として描かれている作品はめずらしく、あまり見かけません。

しかし、本作での映画の仕上げに向けての編集の部分の描写が本当に素晴らしく、撮影したシーンをどれくらいの長さで伝えるのが最適か、シーンを繋ぐためにはどのように繋ぐのが最適かを、編集の難しさと同時に面白さを、きっちり描いている点は高く評価できます。

ラストは72時間のフィルムを90分という尺に収める、「編集」パートの最終局面。役者と制作陣が作り上げたシーンでも、撮影に時間をかけたシーンでも映画として最適の形にすることだけに注力し切って繋げる。

映画を制作する上で見る人のことを一番に考えなくてはいけない、見る人が丁度良いと感じる尺に自分たちの都合を押し殺してでも収めるといったジーン監督と「映画大好きポンポさん」の制作陣の熱い気持ちが伝わってくる最高のストーリー構成だったと思います。

総評

本作では、ポンポさんの提唱する映画論を作中のキャラクターのみならず、「映画大好きポンポさん」の制作陣も徹底して描ききっている点は本当に素晴らしいと思います。

映画の上映時間90分にこだわる点、作中の映画だけでなく本作の「映画大好きポンポさん」の上映時間も90分という尺に収めてきています。女優を可愛く撮ることができればOKという映画論も同様に作中の映画と本作とで、完璧な撮影をやってのけています。

このように、作中の登場人物と「映画大好きポンポさん」の制作陣とのシンクロが本当に見事で、ジーン監督が制作した映画に心が動かされる人の気持ちが「映画大好きポンポさん」を鑑賞した人にも伝わり説得力が生まれていると感じました。

また、原作からの改変も完璧で、原作ではポンポさんの映画を監督を任されたジーンが形にするだけに感じたところを本当の意味でのジーン監督の作品として描いている点は本当に見事だと思います。

ジーンが監督を務め、ナタリーがヒロイン役に抜擢されるところまでは原作の通りなのですが、原作と大きく異なるのは原作では別々に描かれていたジーンとナタリーのエピソードを映画として見やすいように編集している点ではないでしょうか、この編集という部分は映画のオリジナル要素でもある「編集」にも大きく貢献しています。

「追加シーン」と「編集」のパートは映画のオリジナルの要素であり、映画独自のオリジナルシーンは全てが作品に完璧にマッチしており、本作を傑作まで押し上げた要素です。

声優に関してもジーンの声優を務めた清水尋也とナタリーの声優を務めた大谷凜香は声優としての経験のないのですが本作では違和感なくキャラクターを演じきっていました。

映画を観る前は、映画ビジュアルから子供向けの映画なのではないだろうか、声優が下手で映画から気持ちが離れてしまうのではないかと不安に思うこともあったのですが、鑑賞後は映画好きなら当然ですが、全ての人に自信をもって勧められる神作であると確信しました。

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