映画『夏へのトンネル、さよならの出口』レビュー
”上映時間83分という尺に原作の魅力を全て落とし込んだ良作”
監督と脚本は『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』の監督田口智久。
実力のある監督が上映時間83分という短い尺の映画に小説の内容を落とし込めるのか、公開日前から非常に気になっていました。
結論から言いますと非常に完成度の高い作品です。作画とストーリー、主題歌どれをとっても高く評価できます。
どんな話なのか、なぜ高く評価できるのか、これからネタバレなしでレビューしていきたいと思います。
アマプラやネットフィリックスなどのサブスクか、DVDやブルーレイなどのレンタルを検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
作品紹介・あらすじ
第13回小学館ライトノベル大賞でガガガ賞と審査員特別賞をダブル受賞した八目迷の小説「夏へのトンネル、さよならの出口」をアニメーション映画化。
とある田舎町で噂されている「ウラシマトンネル」。その不思議なトンネルに入ると、あるものを失う代わりに欲しいものが何でも手に入るのだという。掴みどころがない性格に見えて過去の事故が心の傷となっている高校生・塔野カオルは、芯の通った態度の裏で自身の理想像との違いに苦悩する転校生・花城あんずと、トンネルを調査してそれぞれの願いをかなえるため協力関係を結ぶ。
「蜜蜂と遠雷」の鈴鹿央士が主人公カオル、「いなくなれ、群青」の飯豊まりえが転校生あんずの声を演じる。「デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆」の田口智久が監督・脚本を手がけ、「映画大好きポンポさん」のCLAPがアニメーション制作を担当。2022年製作/83分/G/日本
夏へのトンネル、さよならの出口 : 作品情報 – 映画.com (eiga.com)
配給:ポニーキャニオン
評価点・賛否両論点
- 小説の内容が短い上映時間の中に綺麗に落としこまれてる
- アニメーションとしてのクオリティが高い
小説の内容が短い上映時間の中に綺麗に落としこまれてる
八目迷先生の小説の内容が綺麗に映画に落としこまれています。
入れば欲しいものが何でも手に入るうらしまトンネルを見つけた塔野カオルが転校生の花城あんずとお互いに欲しいものを手に入れるため共同戦線を張ることになるストーリーで、工夫を凝らさずにそのまま映画化してしまえば長尺になるか、消化不良の作品となってしまう難しい映画化だったと思います。
しかし、小説の内容を一部改変し取捨選択を巧みに行っているため、原作の魅力がが損なわれることなく映画化することに成功しています。
原作では川崎小春という二人の主要人物の友達のキャラクターがいるのですが、二人の物語に焦点を当てることに特化させるために、彼女の登場シーンを大幅にカットしています。
その分、二人の関係と心理描写に時間を割くことができているため、83分という上映時間にも関わらず一度も消化不良だとは感じませんでした。
また、二人が出会う場所を学校から駅に改変してるのですが、これが意味のない改変ではなく雨が降っていて駅で塔野カオルが花城あんずに傘を貸すのですが、後半でこのシーンが生きてくる場面があります。
小説の内容を映画として落とし込む上で、原作の内容を何も考えずに映画化するのではなく、映画としての魅力と原作の魅力をどちらの魅力も作品の中に存在させているのは非常に高く評価できます。
アニメーションとしてのクオリティが高い
シンプルにアニメーションとしての完成度が非常に高いです。風景やキャラクターの動き全てのクオリティが素晴らしく映像作品としても評価できます。
特に素晴らしいと感じたのはウラシマトンネルの中の暗いトンネルの中に広がる紅葉で、ここの作画は本当に映画館で観れて良かったと思いました。画面いっぱいに綺麗な景色が広がっているだけでも感動です。
また、キャラクターの髪一本一本まで丁寧に描かれた作画にも心が動かされました。アニメーションでは、実写の作品と違って、キャラクターの心理描写を伝えるためには表情や動きなど作画によって伝える必要があるため、より高い技術や力量が要求されるとは思います。
本作は、作画もキャラクターの動きなどのアニメーションとしてのクオリティも非常に高い作品となっています。
総評
原作よりも塔野カオルと花城あんずの二人に焦点を当てた映画となっており、取捨選択が的確で原作の取り入れる要素とカットする要素の見極めが本当に見事でした。
また、小説の内容をそのまま映画化するのではなく映画としての最高の形にするための改変にも成功しており、作画とアニメーションとしてのクオリティもさることながら様々な観点から見ても素晴らしい作品であると思います。
恋愛の要素があって、少しファンタジー要素のある綺麗な作画のアニメーションを鑑賞したい人には完璧な作品だと思います。上映時間も短いため気軽に観ることもできるため、まだ観たことがない人には強くオススメできる映画です。